
「脂肪味(しぼうみ)」とは何か――まずはここから
脂肪味(しぼうみ)とは
口内で遊離した脂肪酸が、舌の受容体(GPR120等)を介して神経応答を引き起こすことで生じる味覚的な感覚のことです。
現在「第6の基本味」として世界中で研究が進んでいる概念です。
「脂肪味(しぼうみ)」という言葉をご存じでしょうか。
油を一口なめても、砂糖や塩のように分かりやすい味は感じられません。
そのため、これまで油は「味がないもの」と考えられていました。
しかし近年の研究により、私たちの体には油脂の成分を感じ取る仕組みがある可能性が示されつつあります。
本記事では、第6の基本味として研究が進んでいる「脂肪味」の紹介とともに、油の味を構成する様々な要素についてわかりやすくご紹介します。
油のプロである私たちが、どのような視点で「脂肪味」(油の味)をとらえているのかを知っていただくことで、食品をよりおいしくする使い方のヒントになれば幸いです。
この記事でわかること
- 「脂肪味」とは何か、なぜ第6の基本味として研究されているのか
- 私たちの体が油脂の味を感じ取る仕組み(受容体・GPR120の役割)
- 油の味を構成する4つの要素(触感・微量成分・油溶性成分・酸化物)
- 食品のコクと満足感を高めるための実践的な活用ヒント
目次
1. 生物が味を認識する仕組み
そもそも私たちはどのようにして味を感じているのでしょうか?
それは舌の表面にうま味や塩味等、それぞれの味に対応する受容体があり、これらが特異的に反応しているからです。
受容体とは、舌の表面にある味を感じる感覚器官「味蕾」に存在する、センサーのようなものです。
うま味のもととなるアミノ酸などの物質が受容体と反応し、その刺激を神経を通じて脳へ伝えることで、私たちは味を認識しています。

1.1.五味は対応する受容体が存在
これまで、味覚の受容体としては、うま味・塩味・苦味・酸味・甘味に対応するものが知られており、これらは「五味」と呼ばれています。
| 味 | 主な受容体の種類 | 代表的な物質 |
|---|---|---|
| 甘味 | T1R2/T1R3 | 糖類 |
| うま味 | T1R1/T1R3 | グルタミン酸 |
| 塩味 | ENaC等 | 塩化ナトリウム |
| 酸味 | OTOP1等 | 酢酸・クエン酸 |
| 苦味 | T2R(複数) | カフェイン等 |
なお、辛味は五味には含まれません。
辛味は味覚ではなく痛覚や温覚に近い刺激であり、専用の味覚受容体が存在しません。

1.2.油も味覚情報として認識されている可能性がある
これまで、油脂の主成分であるトリアシルグリセロール(トリグリセリド)には受容体の存在が確認されていなかったため、油脂の味というものは天然に混入する微量成分か、舌による触感であると考えられていました。
しかし最近、油脂そのものではなく油脂が分解されて生じる「脂肪酸」を認識する仕組みが生体に存在することが報告されています。
油脂の主成分であるトリグリセリドは、グリセロールに3つの脂肪酸が結合した構造をしています。
油脂を摂取すると、その一部は口内でリパーゼという酵素によって分解され、結合していた脂肪酸が遊離脂肪酸として切り出されます(※)。

(※)口内リパーゼによる1,3位脂肪酸の加水分解、2位脂肪酸のアシル基転移を経た加水分解を含む。
そして舌の一部の味蕾に存在するGPR120といったタンパク質は、口内の脂肪酸に反応し、神経を応答させることが明らかになりました。

そこでマウスを用いた動物実験では、GPR120を失ったマウスは脂肪酸に対する神経応答が低下したことから、GPR120は脂肪酸の認識に重要な役割を持つことが分かりました。

以上の研究から油脂が単なる触感等ではなく、受容体を介した味覚情報として認識されている可能性が示唆されています。
もちろん、この知見をそのまま人に当てはめるには慎重な検討が必要ですが、少なくとも「油には味がない」とは言い切れないことを示す重要な根拠といえます。
油脂が五味に与える影響について解説した記事「最高の一杯を求めて!油脂のプロが語るスープを美味しくする油脂の役割3選」も合わせてご覧ください。
2. 油脂の味を構成する要素
第1章では、生物において油の味を感じる仕組みについてご説明しました。
しかし、油の味に影響を与える要因は、下の表にあるように他にも様々なものがあります。
| 要素 | 概要 | 代表例 |
|---|---|---|
| 触感(融点) | サラサラ/ギトギトした口当たりの違い | 菜種油 vs 牛脂 |
| 天然の微量成分 | 原料由来の風味成分 | オリーブオイルのポリフェノール |
| 油溶性成分 | 香気成分を溶かし込む性質 | ネギ油の香り |
| 酸化物 | 加熱・酸化による香ばしさ | ラードの炒め香 |
この章では油の物理的な特徴や成分等の特性に着目し、どのような要素が味を決定づけるのかをご紹介します。
2.1. 触感(油脂の融点)
油脂の構成要素であるトリグリセリド自体は無味無臭ですが、油が舌の上に存在することを私たちははっきりと感じ取ることができます。
これは油脂が舌の触覚を刺激するためであり、こうした油脂の「触感」は、口中になめらかさや厚みといったテクスチャーをもたらします。
そしてこの油の触感は、油脂の溶ける温度(≒融点)によって大きく変化します。

例えば菜種油やごま油のような液体の油は口の中でも流動的なのでサラサラとした感触になりますが、牛脂のような常温で固体の油脂はギトギトと感じやすいです。
こうした油の物理的性質は、「油の味」を構成する要素の一つです。
2.2. 天然の微量成分
油脂は植物や動物から抽出して得られるため、原料由来のさまざまな微量成分を含んでおり、油それぞれの個性ある風味を生み出します。

代表的な例が、エクストラバージンオリーブオイルです。
これは、オリーブの果実を搾って得られる油であり、ポリフェノールをはじめとする多様な成分が残っています。
こうした成分は、オリーブオイル特有の青々しさ、辛み、苦み等の独特の味わいをもたらします。
油脂に含まれる成分は極めて多様であり、同じ種類の油でもその抽出・加工方法によって味は異なります。
先ほどのオリーブオイルにおいても、抽出時の温度によって得られる成分は異なり、一般的に低温の抽出(コールドプレス)の方が微量成分の劣化が抑えられるため、味が良いとされています。
2.3. 油溶性成分
油脂には、食品中のさまざまな成分を溶かし込む性質があります。
特に香り成分の多くは油溶性であり、油によく溶けます。
たとえばネギ油は、長ねぎや香辛料などを油と一緒に加熱して作られますが、この時にねぎやスパイスの香気成分が油に移り、香り豊かな調味油になります。
こうした油溶性成分は、それ自体に豊かな風味があるだけでなく、料理全体の香り立ちやコクを高める働きがあります。
2.4. 酸化物
意外に思われるかもしれませんが、私たちが「油っぽい」と感じる風味の一部は、油脂の酸化によって生まれています。
トリグリセリドを構成する脂肪酸は加熱、光や空気との接触によって酸化が進むと、さまざまな揮発性成分を生成します。
これらは不快な劣化臭としても感じられますが、一方で油脂特有の香ばしさや加熱香のもとになります。
たとえばラードを使って炒め物をすると独特の食欲をそそる香りが立ちますが、これはラードの脂肪酸が加熱によって変化し、特有の香気成分が生じるためです。
適度な酸化は油のおいしさを引き出す一方で、過度に進むと不快なにおいや劣化臭にもつながります。
【適度な酸化がおいしさ・風味アップに貢献する例】
| 食品 | 何が起きているか |
|---|---|
| ごま油 | ごまを焙煎する際に脂質が適度に酸化・重合し、あの香ばしい独特の香りが生まれる |
| チーズ・バター | 熟成中に乳脂肪が緩やかに酸化し、コクや複雑な風味の一因となる |
| 揚げ物(フライ) | 高温の油が適度に重合・酸化することで、サクサク感や香ばしいコク(フライ風味)が生まれる |
| エクストラバージンオリーブオイル | 微量の酸化生成物が複雑な果実味・辛味・苦味のバランスを作り出す |
| 干物・塩辛 | 魚の脂質が乾燥・熟成中にわずかに酸化し、旨味・香ばしさが凝縮される |
【過度な酸化により劣化や不快臭が生じる例】
| 食品 | 何が起きているか |
|---|---|
| 古いポテトチップス・せんべい | 袋を開けた後に空気や光にさらされ、油脂が酸化されて「油くさい・酸っぱいにおい」が発生(酸敗臭) |
| 使い古しの揚げ油 | 繰り返しの加熱で酸化が進行し、えぐみ・泡立ち・粘りが出て「古油臭」になる |
| 冷凍焼けした肉・魚 | 冷凍中でも脂質酸化は進行し、白く乾燥した部分から「冷凍焼け臭(酸化臭)」が出る |
| 古いナッツ類 | ナッツの不飽和脂肪酸が空気・光で急速に酸化し、えぐみや「ひなた臭」が出る |
| 開封後しばらく経ったサラダ油 | 光や熱で連鎖的に酸化が進み、加熱すると特有の不快臭(アルデヒド臭)が立ち上る |
このように、油脂の酸化は食品の「味」はもとより、「おいしさ」にも影響を与える要素といえます。
油脂の酸化について解説した記事「なぜ油は酸化するのか?|原因と対策をやさしく解説」も合わせてご覧ください。
3.油脂の味に着目した月島製品
油脂の「味」を食品開発に活用したい場合、当社では以下の2製品をご活用いただけます。
3.1.クリアエール|すっきりした味わいと風味の引き立てを求める場合に
クリアエールは、月島食品独自の油脂製法であるFRI(Flavor Release Improver)製法によって、油っぽさが少なく、すっきりとした味わいと軽い口当たりを実現した新しい油脂です。
調味料や香辛料と組み合わせることで、それらが持つ風味を引き立て、食品全体の香り立ちや味のキレを高めることができます。
また、経時による油脂の風味劣化が少ないため、時間が経っても素材や調味料の風味を損ないにくい点も特長です。

このような用途に適しています:
- 素材や調味料の風味をしっかり感じさせたい場合
- 後味を軽く、キレよく仕上げたい場合
- 香味油のベース油として
- 惣菜・ソース・調味料・加工食品など幅広い食品に
またクリアエールには油脂の劣化臭を抑制する効果があります。
以下は、オリーブ油の一部を置き換えた例ですが、酸化による風味劣化を抑えることで、油脂の風味を長期間維持することができます。

原料の素材感を引き出し、豊かな風味を実現するクリアエールのサンプルはこちら>>>
『クリアエール』が日本食糧新聞社の「新技術・食品開発賞」を受賞しました>>>
3.2.リッチエール|コクと厚み、満足感を加えたい場合に
リッチエールは、月島食品のRTI(Rich Taste Improver)製法によって、少量の添加でも油脂由来のコクや厚みを感じられる製品です。
油脂を多く配合しにくい食品でも、リッチエールを活用することで、満足感のある味わいを付与できます。
また、食品全体の風味にコクと厚みを加え、後味の余韻や食べ応えを高めることができます。

このような用途に適しています:
- 料理のコクや厚みを強めたい場合
- 配合上で油脂を増やしにくい制約がある場合
- 惣菜・ソース・調味料・加工食品など幅広い食品

少量の添加でも油脂由来のコクや厚みを付与できるリッチエールのサンプルはこちら>>>
油脂由来のコクについて解説した記事「コクとは何か?その正体とオススメ食材・調理方法をプロが解説!」も合わせてご覧ください。
まとめ
「油の味」は以下の4つの要素が重なって形づくられています。
- 触感(舌触りや口当たり、融点による違い)
- 天然の微量成分(原料由来の風味・ポリフェノール等)
- 油溶性成分(香気成分を溶かし込む性質)
- 酸化物(加熱や酸化によって生まれる香ばしい風味)
だからこそ油の特性を把握し、その「味」を上手に引き出すことは、料理や食品のコク・満足感・風味の底上げに直結します。
油の味という視点を取り入れることで、これまで以上に油の価値を深く理解し、よりおいしい食品づくりにつなげていただければ幸いです。
参考文献
- Cartoni, C. et al.「Taste preference for fatty acids is mediated by GPR120 in the anterior tongue of mice」PLOS ONE(2010)
- 日本食品科学工学会編『食品の色・香・味』(参照:最新版各号)
- 辻製油株式会社ほか監修『油脂・脂質の基礎と応用:栄養・健康から工業まで』(参照版)
