
油脂の品質を考えるうえで、避けて通れないのが「酸化」です。
油脂は、保存や流通の過程で空気中の酸素、熱、光、金属成分などの影響を受けて徐々に酸化し、以下のような問題を引き起こします。
- 風味や香りが悪くなる
- 変敗臭が生じる
- 色調が変化する
その結果、商品価値の低下や保存期間の設定に影響することがあります。
酸化による問題を解決するために、酸化安定性(油脂がどれくらい酸化しにくいか)を把握する必要があり、酸化安定性を評価する方法として、「ランシマット法」が活用されています。
この記事では、ランシマット法による酸化安定性試験について、わかりやすく解説します。
油脂を使った食品の開発・品質管理に携わる方は、是非ご一読ください。
油の酸化について解説した記事「なぜ油は酸化するのか?|原因と対策をやさしく解説」も合わせてご覧ください。
1.ランシマットと酸化安定性試験
「ランシマット」は、油脂の酸化安定性試験を行う分析機器を指し、ランシマットを使った評価法を「ランシマット法」といいます。
自動で行えるランシマットは、簡便で精度の高い酸化安定性試験として汎用されています。
ここでは、ランシマットの原理と酸化安定性の評価法について解説します。
1.1.ランシマットで得られる結果「誘導時間」
油脂の風味や色調の変化は、油脂の酸化物が原因です。
ランシマット法では、酸化物の発生しやすさを測定できるため、ランシマットで酸化安定性を評価することができます。
一般に油脂の酸化は、一定速度で進行するのではなく、特定のタイミングから急速に進行します。
ランシマット法は、この「酸化が急速に進行する時間」を「誘導時間」とし、酸化安定性の指標として測定する手法です。
ランシマットで得られた誘導時間は、以下のように解釈します。
- 誘導時間が長い → 酸化しにくい
- 誘導時間が短い → 酸化しやすい
誘導時間が長いほど、その油脂は酸化しにくく、安定性が高いと評価します。
1.2.ランシマット法の流れ
以下の図は、ランシマット法の大まかな流れです。
ランシマットは、油脂を高温加熱しながら、空気を送り、強制的に酸化させます。
酸化が進むと、油脂が分解した揮発性成分が生成し、この揮発性成分を水に捕集します。
水に捕集した揮発性成分が水に溶けると、水の導電率(電気を通す能力)が上昇します。
ランシマットから、以下の図のような水の導電率グラフが得られます。

導電率が急激に変化するポイント(変曲点)をもとに、装置が誘導時間を自動算出します。
参考 日本油化学会_油脂・脂質の基礎と応用、粧技誌 第31巻 第3号 1997_CDM試 験法による顔料の油脂酸化活性の評価
2.食用油脂におけるランシマット活用
ランシマット法が特に力を発揮するのは、「複数の油脂を同じ条件で横ならびに比較したい」という場面です。
誘導時間という数値として結果が得られるため、感覚ではなくデータで意思決定ができるのが最大のメリットです。
食品開発や安全管理を目的としたスクリーニングや複数候補の比較検討で広く活用されており、たとえば以下のような場面で使われます。
- 食用油の品質比較:原料油Aと原料油Bのどちらがより安定しているか
- 抗酸化剤の効果確認:抗酸化剤の添加で安定性が改善したか
- 配合開発:配合変更で酸化安定性がどう変わったか
- 製品の保存性評価:賞味期限設定の目安を作る

当社では、調理や焼成に使う製品の熱安定性(加熱中の酸化耐性)や日持ち安定性(賞味期限)の確認に、ランシマットが活躍しています。
3.ランシマット法の手順
下の写真は、当社が使用しているランシマットです。

ランシマットを用いた酸化安定性試験の手順を、以下に解説します。
- 試料を準備する
試料油脂を秤量(食用油脂は、一般的に3g)し、加熱部へ設置します。 - 加熱・通気しながら測定する
試料を加熱(食用油脂は、一般的に120℃)しつつ空気を送り、発生した揮発性物質を電極が浸かった水へ捕集します。 - 導電率変化から誘導時間を求める
水に浸かった電極により導電率曲線が作成され、その変曲点から、酸化安定性の指標となる誘導時間を算出します。
注意点
ランシマットで比較検討を行う際は、条件のばらつきに注意が必要です。
試料量・温度・通気流量・器具の洗浄・前処理方法——これらのどれかがそろっていないと、数値の比較自体が意味をなさなくなります。
以下の点をきちんとそろえて測定します。
- 試料量を統一する
- 温度条件をそろえる
- 通気流量を一定にする
- 器具の洗浄(清浄状態を保つ)
- 前処理方法を統一する
また、必要に応じて、繰り返し測定することも重要です。
まとめ
ランシマットを用いた油脂の自動酸化安定性試験は、油脂の酸化しやすさを「誘導時間」という形でわかりやすく数値化できる便利な方法です。
自動で測定でき、短時間で比較しやすいため、品質管理や研究開発の現場で幅広く活用されています。
油脂の品質評価は、誘導時間だけでなく、過酸化物価(POV)、酸価(AV)など他指標も評価する必要があります。
油脂の品質評価について詳しく解説した記事「油の健康診断!酸価・過酸化物価について油脂開発員が解説」もあわせてご覧ください。
当社では、今回解説した「ランシマット法」をはじめ、油脂の品質を日常的かつ多角的に分析・評価しています。
「どの評価手法が自社製品に合うか分からない」「データの読み方について相談したい」など、お客様からのご相談も随時承っておりますので、お困りの際は、お気軽にお問い合わせください。
