
私たちがキッチンで当たり前のように使っている「サラダ油」や「天ぷら油」。
実は、これらはどちらも「精製油」の仲間です。
一方で、オリーブオイルやごま油のように香りや風味がしっかり残る油は「未精製油」と呼ばれます。
同じ油でも、それぞれどんな違いがあるのか、気になりませんか?
私たちは、マーガリンやショートニングをはじめとする食用加工油脂を製造する過程で原料となる油を精製して様々な製品に利用しています。
その中で培った知識と経験を活かし、今回は油脂の精製工程や精製油・未精製油それぞれの特徴について、研究員の視点から分かりやすくまとめてみました。
ぜひ最後までお付き合いください。
目次
1.精製油とは「洗練された油」
精製油は、粗油から不純物を取り除き、食用になった油です。
粗油とは、パーム(アブラヤシ)、菜種、ひまわりの種子などに代表される油脂原料を圧搾、または抽出してから何も手を加えていない油です。
粗油には、粉砕された原料に由来する粕だけでなく、風味を損なう成分や色素、匂い成分などの数多くの不純物が含まれているため、濃い褐色で、強い匂いを持ちます。
つまり、食用には適していません。
精製をすることで、不純物が取り除かれて食べられるようになるだけでなく、濁りや強い匂いも無くなります。

そもそも「精製」とは「粗製品に手を加えて、洗練された品質の良いものにする」という意味の言葉です。
私たちが普段何気なく食べている、天ぷら油やサラダ油などは、粗油が洗練され、美しく生まれ変わった「精製油」の代表例といえます。
参照 日本植物油脂協会_日本で流通する植物油・植物油の製造、日本油化学会_油脂・脂質の基礎と応用(11.1 植物油脂の採油)
2.油脂の精製について知っておきたいポイント
油脂の精製過程で、危害要因が発生する可能性を懸念する意見も見られますが、むしろ油を精製する工程は、品質安全において不可欠といえます。
そこで「油脂の精製過程でどのような変化があるか」を正しく知り、精製油を安心して食生活に取り入れていただくために、精製油について知っておきたいポイントを解説します。
2.1.精製することで危害要因を取り除く
粗油に含まれる不純物は、油の風味を損ねるだけでなく、体に健康被害を引き起こす要因もあり、それらを取り除くことが精製の主な目的です。
健康被害を引き起こす不純物の代表として、油脂が酸化して生成した酸化物が該当します。
酸化物が増えた油を食べると、嘔吐や下痢など悪影響を及ぼす場合があります。
また、油脂が分解すると遊離脂肪酸が発生し、食べると舌を刺激するような味がします。
遊離脂肪酸は、人体に直接的な被害は見られることはほとんどありませんが、油の風味を損なわせるものです。
また、酸化物からアルデヒドやケトンが生成することがあります。
アルデヒドやケトンには毒性があることが懸念されますが、これらも精製で除去されます。
精製をすることで、油の風味や見た目を改善すると同時に人への健康被害を未然に防ぎます。
参照 名古屋文理大学紀要 第9号(2009)、日本油化学会_油脂・脂質の基礎と応用(6.1 自動酸化、6.1 熱酸化)、食衛誌.Vol 11,No.5、アクティビティノート第 284 号(2020 年 10 月)
2.2.精製工程とトランス脂肪酸の関係
油脂の精製(とくに脱臭)は高温下で進められるため、ごく微量ではありますが、精製油にトランス脂肪酸が発生することがあります。
しかし、天ぷら油やサラダ油などの精製油を通じてトランス脂肪酸を過剰に摂取し、健康に悪影響が生じる心配はほとんどありません。
理由は、トランス脂肪酸の1日摂取許容量を大きく上回るほど精製油を摂取することが現実的ではないためです。
たとえば、米国農務省のデータでは、精製油100g当たりのトランス脂肪酸含有量は約0.7g、世界保健機関(WHO)が推奨するトランス脂肪酸の1日摂取許容量は約2gです。
よって、トランス脂肪酸の1日摂取許容量を超えるには、天ぷら油やサラダ油を1日に286g以上摂取する必要があります。
しかしながら、実際にこれを満たすのは現実的ではありません。
また、揚げ調理の際に何度も油を高温加熱することでトランス脂肪酸が増加する可能性が指摘されていますが、繰り返し使用した場合でも増加量はごく微量で、体への影響はほとんどないことが確認されています。
日常的な食事において、精製油によるトランス脂肪酸の過剰摂取を心配する必要はありません。
参照 米国農務省_FoodDate Central、農林水産省_トランス脂肪酸に関する情報、油脂の加工由来のトランス脂肪酸
3.精製の代表的な4つの工程
なたね油や大豆油などの普段よく食べられる精製油は、脱ガム→脱酸→脱色→脱臭、の順に行われます。
不純物は様々な種類があるため、全てを同一の方法では取り除くことができません。
よって、精製工程には狙って除去する対象があり、除去する方法が違います。
| 工程 | 主な除去対象 | 除去法 |
| 脱ガム | リン脂質 | 静置して沈殿、または、遠心分離 |
| 脱酸 | 遊離脂肪酸、脱ガムで除去し切れなかったリン脂質 | アルカリで中和、水に溶解 |
| 脱色 | 色素、酸化物 | 活性白土に吸着 |
| 脱臭 | 揮発成分(匂いのもと) | 高温、真空下で水蒸気蒸留 |
下記では、それぞれ4つの工程でどのようなことが行われているか、解説します。
参照 日本油化学会_油脂・脂質の基礎と応用(11.2 植物油脂の精製)、日本生物工学会(2012年 第18号)
3.1.脱ガム|リン脂質を取り除く
脱ガムは、油中のリン脂質を取り除くことです。
リン脂質は、油の濁りや、充分に取り除かれずに揚げ油に使った時、泡立ちの要因になります。
リン脂質には水和性と非水和性があり、それぞれの特性に合わせた除去をします。
| 種類 | 特性 | 除去法 |
| 水和性 | 水と結合してコロイド(混濁した溶液)状になり、油と分離する。 除去が不十分だと、次の脱酸効率が悪くなり、精製ロスが増える |
静置して沈殿、 遠心分離 |
| 非水和性 | 水と結合しにくく、特に、Ca(カルシウム)、Mg(マグネシウム)などの金属と結合すると、水に全く溶けない。 | 遠心分離 |
脱ガムで除去しきれなかった分は、次に行われる脱酸以降の工程で除去されていきます。
脱ガムが不十分だと、後に続く工程の効率が悪くなり、精製完了後の油の品質を左右するため、精製の中でも特に重要な工程です。
参照 日本油化学会_油脂・脂質の基礎と応用(11.2.2 脱ガム工程、11.2.3 脱ガムコンディショニング工程)、オレオサイエンス_第一巻第7号(2001)、日本生物工学会(2012年 第90巻 第8号)
3.2.脱酸|遊離脂肪酸を取り除く
脱酸は、油脂の風味を損なわせる遊離脂肪酸を取り除くことです。
- 油に苛性ソーダ(NaOH:水酸化ナトリウム)を過不足のない量を投入する。
苛性ソーダが過剰だった場合、遊離脂肪酸だけではなく、遊離していない脂肪酸まで反応してしまいます。
よって、油脂の生産量が低下し、廃棄物が増加する、などの問題が起きます。
一方で不足した場合は、遊離脂肪酸が除去し切れず油脂の品質が低下します。
過不足なく適量な苛性ソーダを投入するために、脱酸前に遊離脂肪酸の濃度を検査することが必須です。 - 石鹸になり、お湯に溶けるようになる

- 石鹸を、お湯に溶け込ませる

- 石鹸を溶けこませた水を、遠心分離で除去する

参照 日本油化学会_油脂・脂質の基礎と応用(11.2.4 脱酸工程)、日本食品工業学会誌_第33巻,第4号
3.3.脱色|色素成分を取り除く
色素成分であるクロロフィルやカロテノイドなどは、油脂の酸化を促進させる要因です。
脱色をすると、油脂の劣化要因を取り除くだけではなく、油の透明度が増し見た目も良くできます。
脱色は「活性白土」を油に添加して行います。
活性白土は、シリカが主成分で、見た目は砂のような物質で、一粒にたくさん穴が開いています。
その穴に油の色素が入り込むことで、活性白土が色素成分を吸着し、脱色後には真っ白だった白土に色が着きます。
また、色素は加熱により分解されるため、次の脱臭時でさらに脱色されます。
参照 日本油化学会_油脂・脂質の基礎と応用(1.6 色素、11.2.5 脱色工程)
3.4.脱臭|臭気成分を取り除く
脱臭は、遊離脂肪酸・アルデヒド・ケトンなどの油の不快な匂いの成分を取り除く工程です。
これらは、気化しやすく水に溶ける性質があるため完全に気体にして蒸発させます。
油脂は水蒸気で噴き上げられ、臭気が取り除かれた油脂が溜まっていきます。
最後まで残っている、色素、微量金属、残留農薬なども脱臭時に取り除かれます。
仕上げに脱臭油をフィルターに通して濾過をしたら、精製油の完成です。
参照 日本油化学会_油脂・脂質の基礎と応用(11.2.7 脱臭工程)
3.5.サラダ油にするときには、さらに「脱ろう」工程が加わる
油脂の中でもサラダ油だけは、「脱ろう」という工程が必須となります。
「脱ろう」は脱色と脱臭の間に行われ、低温で結晶化する成分を除去する工程です。
低温で結晶化する成分には「ワックス」というものがあり、よく油脂と混同されやすいですが、化学構造が違います。
サラダ油は加熱せずに食べる場合があるため、低温に置かれたときに色が濁って、製品の価値が下がることをふせぐために、
サラダ油には色と冷却安定性(低温における結晶化の抑制)において厳格な基準値があり、それを満たしていることが、サラダ油の必須条件となります。
参照 高分子 26巻 9月号、日本油化学会_油脂・脂質の基礎と応用(11.2.6 脱ろう工程・3.1 物理的性質)、 日本植物油脂協会_日本の植物油事情・植物油なんでもQ&A、農林水産省_食用油脂の日本農林規格
4.あえて「未精製」が好まれる、ごま油とオリーブオイル
精製をすることで、油脂劣化の促進要因が取り除かれることをお分かりいただけたと思いますが、粗油でも匂いが好まれ、促進要因が少なければ、精製を必要としない場合があります。
代表的なものは、オリーブオイルとごま油です。
これらは搾油した後、浮遊不純物をろ過して取り除きますが、脱ガムなどの精製は行いません。
精製をおこなうと、特有の匂いが無くなってしまうからです。
では、なぜごま油とオリーブオイルは、精製をしなくても品質に問題がなく提供できるのでしょうか?
その理由は抗酸化作用がある成分を多く含み、劣化が抑制されるためです。
- ごま油
抗酸化作用がある「セサモリン」や「セサモール」などを多く含む。
ただし、焙煎をせずに搾油した場合は、精製が行われる。 - エキストラバージンオリーブオイル、バージンオリーブオイル
抗酸化作用がある「ポリフェノール」を多く含む。
ただし、遊離脂肪酸の量が多くなってしまった場合は精製される。
原料の持つ色や匂いを生かし、料理の風味付けなどに好まれて使われます。
参照 日本植物油脂協会_植物油の製造・オリーブオイルのお話し・ごま油のお話し、国際オリーブオイル協議会HP、日本油化学会_油脂・脂質の基礎と応用(10.2 各種油脂の特徴、6.4 酸化防止剤と酸化防止機構)
5.さいごに
油の「精製」は、食用に適しない粗油を食べられるようにするために必須なこと、ということをおわかりいただけましたでしょうか?
油の精製について、正しく理解できる一助となれば幸いです。
ちなみに、弊社には「クリアエール 菜種油」という製品があります。
クリアエールは、弊社の精製のノウハウを駆使し、「素材の味を引き出す」優れた性質をもつ油として開発され、高い評価を得ることができました。
このクリアエールのように、油の精製は油の新しい可能性を生み出すことにも一役買うことができます。
※『クリアエール 菜種油』が日本食糧新聞社の「新技術・食品開発賞」を受賞しました
弊社は、引き続き油の品質を守るために、また、優れた製品を開発するために、油の精製に尽力して参ります。
