
「pH」は食品の風味・保存性を大きく左右するため、製造工程の品質管理で使用されます。
風味の最適化はもちろん、日持ち安全性の確保、新製品開発のスピードアップのためにもpHの理解は欠かせません。
開発担当者・品質管理担当の方はぜひ本記事を読んで、pHの基本原理から測定方法、食品開発でのpH活用方法を理解し、「なんとなく使っているpH」を「使いこなすpH」に変えていく一助となれば幸いです。
1.pHとは
pHは、数字そのものより「何を見ている指標なのか」を理解すると、食品の設計や評価に使いやすくなります。
この章では、pHが水素イオン濃度を表すという基本から、身近な食品の具体的なpH値、そして微生物との関係までを順に押さえ、pHを「味」と「保存性」をつなぐ「ものさし」として使えることを学んでいきます。
1.1.pHとは水素イオン濃度を示す
pH(「ピーエイチ」「ペーハー」)とは、水溶液がどの程度「酸性」か「アルカリ性」か、あるいは「中性」かを表すための尺度です。
水の中には、ごくわずかに「水素イオン(H⁺)」が含まれており、この水素イオンが多いと酸性、少ないとアルカリ性になります。
pHはその水素イオンの“濃さ”を数字にしたもので、通常は0〜14の範囲で表します。
- pH<7→ 酸性 pHが小さくなるほど強い酸性
- pH7付近 → 中性
- pH>7 → アルカリ性 pHが大きくなるほど強いアルカリ性
1.2.身近な食品のpH
食品開発では、風味や保存性などの品質管理を数値で共通認識するための“基準のものさし”として、pHが使われています。
では身近な食品のpHはどのくらいなのでしょうか。

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pH 0〜3:強い酸性
例:梅干し(pH2)レモン果汁(pH2~3)、酢(pH2~3) -
pH 3〜5:酸性
例:炭酸飲料(pH3)、オレンジ(pH3.3~4.3)、ブドウ(pH4)、ヨーグルト(pH4.6~5.0) -
pH 5〜6:弱酸性〜中性
例:食パン(pH5.3)、チェダーチーズ(pH5.2)、白米(pH6.0)、卵の黄身(pH6.0)、牛乳(pH6.3~6.5) -
pH 7:中性
例:純水 (水道水は、弱酸性〜弱アルカリ性) -
pH 8〜9:弱アルカリ性
例:かんすいを使った中華麺(pH8.0)、卵の白身(pH9.0) -
pH 9以上:強いアルカリ性 強アルカリの食品はほとんど存在せず、石鹸や洗剤などが当てはまります
例:石鹸(pH10前後)
※pH値は参考値です
(出典:食品衛生法における酸性食品の食品区分とその擬似溶媒に関する検討,六鹿 元雄、食品微生物の科学 [第3版],清水潮)
1.3.pHと微生物の関係
pHは、食品の「酸っぱさ」だけでなく、「どれくらい微生物が増えやすいか」を左右する、保存性設計の大切なパラメータです。
微生物には、それぞれ「増殖しやすいpHの範囲(至適pH)」が存在します。
食品が関係する微生物(真菌や乳酸菌)はやや酸性(pH5~6)が至適pHになっています。
一般論として、pHが低い(酸性)、または高い(アルカリ性)と細菌は増えにくくなり、pHが中性付近に近づくほど増えやすくなると考えておくと、食品設計の判断に使いやすくなります。
2.pHの定義式
pHという言葉は現場でよく使われますが、「なぜその数値になるのか」「数値が1違うと何がどれだけ変わるのか」をきちんと理解して使うことが大切です。
この章では、pHがどのような数式で定義されているのかについて整理します。
pHの数値は感覚的な“酸っぱさのメーター”ではなく、水溶液中の水素イオンの濃度を、対数という少し特殊なものさしで表したものです。
【補足】対数とモルとは?
定義式を理解するうえで、「モル(mol)」と「対数(log)」という2つの概念が登場します。
どちらも高校化学で学ぶ内容ですが、ここで簡単におさらいしておきましょう。
● モル(mol)とは
「モル」とは、非常に小さな粒子(原子・分子・イオンなど)の数を数えるための単位です。
水素イオンのような極めて微小な粒子は1個・2個では扱いにくいため、化学では「6.02×10²³個(アボガドロ数)」をまとめて「1mol(モル)」と定義して扱います。
pHの定義式に登場する 「mol/L」 は、「1Lの溶液の中に何mol分の水素イオンが溶けているか」を表す濃度の単位です。
たとえば [H⁺] = 1×10⁻³ mol/L とは、「1Lの水溶液の中に、水素イオンが0.001mol(= 6.02×10²⁰個)含まれている」ことを意味します。
● 対数(log)とは
「対数(log)」とは、「ある数が何乗になっているか」を取り出す計算です。
特に log₁₀(常用対数)は、10を何乗すればその数になるかを表します。
例:
10¹ = 10 → log₁₀(10) = 1
10² = 100 → log₁₀(100) = 2
10³ = 1000 → log₁₀(1000) = 3
食品や化学の分野では、扱う数値の桁数が非常に大きく(あるいは小さく)なるケースがよくあります。
そのような場面で対数を使うと、「10倍・100倍・1000倍…」という巨大な差を「1・2・3…」というシンプルな数字に圧縮して表現できるため、直感的に比較しやすくなります。
pHにおいては、水素イオン濃度が 0.00001 mol/L(= 1×10⁻⁵ mol/L)のように非常に小さな数値になるため、対数を使ってシンプルな1桁〜2桁の数字(この場合pH=5)に変換して扱っています。
以上をふまえると、pHの定義式が理解しやすくなります。
pHは、水素イオン濃度 [H⁺] をもとに次の式で定義されます。
pH = -log10[H+]
ここでは [H⁺] の単位は mol/L です。
この式からわかるように、水素イオン濃度 [H⁺] が10倍になると pH は1小さくなります。
例えば、
- [H⁺] = 1×10⁻² mol/L → pH = 2
- [H⁺] = 1×10⁻³ mol/L → pH = 3
という関係になります。
pHは対数スケールであり、pH数値の差はわずかでも、溶液の性質としては大きな違いになる点が重要です。
数字から想定される差以上に、実際の酸の強さの差が大きいことを意識しておくと、レシピの微調整や保存性設計の感覚がつかみやすくなります。
3.食品開発におけるpHの活用方法
食品開発の現場では、日持ち安全性の確保や発酵の管理、新製品開発のスピードアップのためにpHの測定が有効です。
この章では、活用例について3つ記述します。
①食品の日持ち向上の指標
1章でpHと微生物の関係について先述しましたが、pHが低い(酸性側)ほど細菌は増えにくくなり、pHが中性付近に近づくほど増えやすくなるため、pH調整剤(クエン酸、乳酸等)を添加し、菌が増殖しにくい環境を作ります。
しかし、pHを低くし過ぎると酸味が強くなりすぎて味への影響が出てくる可能性があるため、風味と日持ち向上のバランスを取る必要があります。
食品の日持ち向上の指標としてpHを測定します。
②発酵終点の管理
微生物を発酵させて作る食品(パンやチーズ、日本酒など)の発酵工程管理をpHを用いて行います。
それは、発酵が進むと、乳酸菌が産生する乳酸によってpHが下がるため、発酵の進行度をpHによって管理できるからです。
例えば、ヨーグルトの製造では乳酸菌のpH4.6未満になるまで発酵を行います。
発酵を止めるタイミングが早すぎるとドロドロの状態で保形性が悪く、また酸味が少なくなります。
逆に遅すぎると酸味が強くなりすぎてしまい、ビフィズス菌など酸に弱い菌の生存率が低下してしまいます。
当社でも、マーガリンに乳風味を付与するために乳酸菌発酵させた発酵素材を製造しており、pH値が発酵終点を決めるタイミングの1つとなっています。
(参考:ヨーグルトのpH測定, METTLER TOLEDO)
③タンパク質の溶解や保水性の向上
pHをアルカリ性に寄せることで、タンパク質の溶解や保水性が向上します。
例えば、硬い肉にリン酸塩を用いてアルカリ性にすることで、肉の保水性が向上して柔らかい肉となり、食感改善に用いることができます。
(参考:肉とリン酸塩の関係, 株式会社ハマダフードシステム)
4.pH計による分析の流れ

こちらの写真は、当社が測定に使っている機器と同スペックのpH計です。
(参照:卓上型pHメータF-72, HORIBA)
この章では、この機器でどのようにpHを測定するのかをご説明します。
機種により使用法が異なるため、必ず取扱説明書に従って使用してください。
今回は一般的な分析の流れをご紹介します。

①pH電極の準備
内部液の液面が被検液より高くなっていて液量が十分であることを確認します。
内部液の液量が少ない場合には、内部液補充口を開けて補充します。
また、電極が乾燥していないかを確認し、純水で洗って優しく水分をふき取ります。
②校正
校正はpH計の精度を保つうえで非常に大切な工程です。
pH標準液を使用して校正を行います。
まず、内部液補充口を開けます。こちらは、校正・測定時は必ず開けるようにしてください。
pH電極をpH標準液に3cm以上浸します。
値が安定したら、校正ボタンを押し、校正を行います。
2点以上での校正を行う場合は、検出部を純水で洗って優しく水分をふき取ってから、次のpH標準液に浸すようにしてください。
③測定したいサンプルの均一化
スプーン等でよく混ぜ合わせ、ムラのない状態にします。
④測定
サンプルの液温を安定させ、電極の先端にある液絡部まで浸漬させます。
数値が安定するまで待ち、測定します。
⑤使用後
内部液補充口を閉めます。
電極は純水で洗浄し、水分を優しく拭き取ります。
電極保護キャップ内のスポンジがひたる程度に純水を入れて、電極に保護キャップを装着して保管します。
5.ガラス電極法の測定原理
pHを測定する方法はガラス電極法、指示薬法、半導体センサ法、金属電極法など、様々な種類が存在します。
今回は、その中でも最も一般的なガラス電極法について説明します。

ガラス電極法は、サンプル中の水素イオン濃度に反応するpHガラス電極と、安定した電位を保つ比較電極の2本を用い、両者の間に生じる電圧(電位差)からサンプルのpHを測る方法です。
ガラス電極は、サンプルのpHに応じて電圧が変化します(サンプル固有のエネルギーの大きさによって電圧が変わります)。
一方、比較電極はサンプルのpHにかかわらず、一定の電圧を示すよう工夫された電極です。
つまり、ガラス電極と比較電極の電圧差が同じ(ゼロ)であれば、サンプルのpHは比較電極のpHと一致します。
一般に比較電極にはpH7の内部液が入っています。
また、理論上は25℃のとき、pHが1異なると約59 mVの電圧差が生じるとされています。
したがって、この電圧差を測定することでサンプルのpHを計算できます。
6.最後に
pHは、水溶液の酸性・アルカリ性の度合いを表す指標です。
また、食品開発においては、「おいしさ」と「保存性」のバランスを科学的な根拠にもとづいて配合(レシピ)を決定する一助となってくれる強い味方です。
pHを中性から酸性・アルカリ性に傾けることで、多くの微生物の増殖を抑えやすくなります。
ぜひ、食品開発・安全管理に活用してみてください。
当社がお客様からお問い合わせいただく、よくある質問を以下にまとめています。
皆様がpHを測定する際の、ご参考にしていただければ幸いです。
また、pHのみならず、食品分析でお困りのこと・疑問点などありましたら、当社営業担当者またはお問い合わせフォームよりご相談ください。
