
量販店などで普段目にする加工食品の裏面表示に、「食用精製加工油脂」という言葉が書かれているのを見たことはありませんか?
「精製」や「加工」といった言葉を目にしたとき、どのようなものなのか気になる方もいらっしゃるかもしれません。
実は、食用精製加工油脂は、私たちの食生活にとても身近な存在です。
本記事では、食用加工油脂メーカーに勤めて15年以上の筆者が、『食用精製加工油脂の正体』と『なぜ食用精製加工油脂が食品に使われているのか?』をわかりやすく徹底解説いたします。
目次
1.食用精製加工油脂とは?
1章では、食用精製加工油脂とはいったい何者なのかをお伝えします。
1.1.食用精製加工油脂の定義
食用精製加工油脂は、食用油脂の一種です。
食用精製加工油脂は、日本農林規格(JAS規格)に以下のように定義されています。
「原料油脂に水素添加,分別又はエステル交換を行って,融点を調整し,又は酸化安定性を付与したものであって,かつ,食用に適するように精製をしたもの」
このままだと、とっつきにくく、イメージがわかない方が多いのではないでしょうか?
少し言い方を変え、以下のように表現してみました。
「植物油脂や動物油脂を原料にした油脂の一種です。天然の油脂にはない性質(固まり方や融け方)にする工夫をしています。」
油脂には、常温で「液体」のもの、常温で「固体」のものがあります。
また、原料の種類によって、植物由来のものと動物由来のものに分けられ、様々な性質を持っています。
このような様々な性質を持った油脂を組み合わせ、ちょうど良い物性の油脂となるように工夫をしています。
いかがでしょうか?
少しだけ、どのようなものかイメージが湧いてきたでしょうか?
食用精製加工油脂とは、皆さんが日常的に食べている油脂を組み合わせたり、ちょっとした工夫をした油脂です。
次の章でもう少し詳しく解説します。
1.2.食用精製加工油脂の役割
食品における油脂は、風味や、食感などの物性に大きな影響を与える大切な役割を果たします。
風味の面では、コクなどの美味しさに寄与します。
また、油脂を使用することで食感などの物性面においては、以下のような役割があります。
- 滑らかな口どけのマーガリン
- サクサクとした食感のクッキー
- きれいな層が重なるパイ
- サックリとした食感のドーナツや天ぷら
このように油脂の持っている力を発揮させ、美味しい食品を作るための方法の一つとして、食用精製加工油脂が使われています。
また、マーガリンやショートニングなど油脂製品の原料としても重要な役割を果たしています。
もし、食用精製加工油脂が使われなかったらどうなってしまうのでしょうか?
一つの例として、家庭でご使用になるマーガリンをみてみましょう。
家庭にあるマーガリンは、冷蔵庫から出してからすぐの冷たい状態でも滑らかにパンに塗ることできますよね。
この冷蔵庫から出してすぐに滑らかにパンに塗ることができるマーガリンの性質を作る方法の一つとして「食用精製加工油脂」があります。
食用精製加工油脂をうまく使用することで、写真のようにマーガリンの性質が変化します。
上記の左の写真のように、食用精製加工油脂をうまく取り入れることで、家庭用マーガリンに求められる「冷蔵庫から出してすぐに滑らかにパン塗ることができる」という性質のマーガリンを作ることができます。
食用精製加工油脂は、油脂の物性を作るためにとても重要な存在です。
裏面表示に表記されている場合以外にも、多くの場面で使われ、食品の美味しさを支える縁の下の力持ちと言えます。
2.食用精製加工油脂の具体的な役割
この章では、食用精製加工油脂の具体的な役割について解説します。
実際に、食用精製加工油脂が使われている食品の裏面表示の原材料名を見てみましょう。
次は、裏面表示に「食用精製加工油脂」という言葉が記載されていなくても、使用されている可能性があるものです。
「ショートニングやマーガリン、加工油脂」といった表示がある場合には、それらの原料として食用精製加工油脂が使われている可能性があります。
食用精製加工油脂には、以下のような役割があります。
- カレーパン:食べたときに感じるサクッ、ジュワッとした食感にする
- ロールケーキのクリーム:滑らかな口どけにする、クリームを作る際の作業性を向上させる
- クロワッサン:サクサク、パリパリッとした食感にする、クロワッサンを作る際の作業性を向上させる
- ビスケット:サクサクとした食感にする
- パスタソース:パスタ麺に絡みやすい性質にし、より美味しく味わえるようにする
- カレールゥ:トレーから出しやすくしたり、カレーの美味しさや口当たりを良くする
例として挙げただけでも、このようにたくさんの役割があります。
裏面表示に記載されているものや記載されていないもの、使われ方は様々ですが、実は身近な食品において食用精製加工油脂は広く使用されているのです。
美味しさ(風味、食感、油脂のコク等)や、作業性(製品を作る際の使い勝手、製造過程での安定性等)…様々な目的で使用されています。
3.油脂の加工について
1.1.食用精製加工油脂の定義で、「水素添加」、「エステル交換」、「分別」という言葉が出てきました。
普段の生活では聞きなれない単語ですよね。
3章では、これらについて一つ一つ解説いたします。
3.1.水素添加:油脂の硬さをコントロール!
水素添加は、油脂に硬さを付与することを主な目的として行われます。
水素添加とは、「液油中の不飽和脂肪酸に水素を添加し、食用油脂の硬さ・融点を調整する工程により様々な性質の油脂を生み出すこと」です。
水素の添加量により、任意の硬さに調整することができます。
このため、マーガリンやショートニングの原料として使用され、求める性質のマーガリン等を作ることができます。
また、油脂が長持ちする(油脂の酸化安定性の向上)という利点もあり、フライ油の使用期間の延長や、お菓子の日持ち向上に寄与しています。
しかし、一方で、水素の添加量によっては、副生成物としてトランス脂肪酸が発生するため、近年は水素添加油脂が使用される比率は減少しています。
3.2.エステル交換:求める性質に合わせて油脂をカスタマイズ!
エステル交換は、求める油脂の性質に合わせて、より細かくカスタマイズして設計することができます。
油脂の口どけを改善する、油脂の溶けやすさや温度による硬さの変化の調整、パンやお菓子などに使われるバタークリームの口どけのコントロールやパンやお菓子を作る際の作業性向上など、細かい要望に対応できます。
エステル交換とは、「油脂の構成成分の一つであるトリアシルグリセロールの脂肪酸の配列を組み換え、新たな性質を持った油脂に生み出すこと」です。
3.3.分別:目的の性質を持った油脂毎に油脂を分ける!
分別も、目的の物性の油脂(融点が高い、低いなど)を得るために行う工程です。
分別とは、「油脂の融点などの違いを利用して、1つの原料油脂から、様々なかたさの油脂を得ること」です。
油脂は単一の成分で構成されているものではなく、様々な融点を持つ成分(トリグリセリド)の混合物です。
分別により、油脂を様々な区分に分け、目的に応じた物性の油脂を選ぶことができるようになります。
3.4.油脂の加工のまとめ
3章でお伝えしたように油脂の加工方法には様々な方法があります。
加工により得られた油脂をさらに組み合わせることで、目的に応じた油脂が生み出され、2章でお伝えしたように様々な食品へ利用されます。
(参考文献:油脂製品の知識(幸書房))
4.まとめ
この記事では、食用精製加工油脂の正体と役割についてお伝えしました。
また、一言で油脂といっても、様々な種類の油脂があり、加工方法や、組み合わせがあり、呼び方も異なることをご理解いただけたでしょうか?
言葉はとっつきにくいかもしれませんが、食用精製加工油脂は、食品の美味しさのためにとても重要な役割を担い、縁の下の力持ちとしてとても大切な食品です。
上手に付き合って、おいしく楽しい食生活を楽しみましょう!