
シュークリームやエクレアは身近で人気のある定番のお菓子です。
これらの基本となるシューパフは、シュー生地がまるで風船のように膨らんだ特徴的な形をしています。
このシューパフ作りはとても難しく、一度でも作ったことがある方は、うまく膨らまないことを経験したことがあるのではないでしょうか。
皆さんもこんな悩みを抱えていませんか?
- シュー生地が安定して膨らまない
- 焼成したシューパフのボリュームが出ない
- テーブルテストではうまくできたのに、大量生産ラインに落とし込んだらうまくいかなかった
- レシピを変えるとボリュームが出なくなってしまう
- 穴の空いたシューパフがたくさんできてしまう
- 歩留まりが悪く、廃棄率が増えてしまう…など
本記事では、シュー用マーガリンの開発に15年以上携わってきた開発担当者が、シューパフがうまく膨らまないときの原因と、安定して膨らませるためのコツをお伝えします。
なお、本記事では焼成前の原材料を加熱・混合した状態の生地を「シュー生地」、焼成後に大きく膨らんだものを「シューパフ」とし、シューパフにクリーム等を詰めたものを「シュークリーム」と区別して解説します。

目次
1.シューパフはなぜ膨らむのか?
シューパフを膨らませるためには、シュー生地が膨らむ仕組みとシュー生地の製造工程を理解することが重要です。
はじめに、この2点について簡単に解説します。
1.1.シュー生地が膨らむ仕組み
シュー生地はどのようにして膨らむのでしょうか?
まず最初に、シュー生地が加熱されて膨らむ仕組みを見てみましょう。

オーブンの中では、シュー生地に含まれている水分が加熱されて水蒸気に変わります。
この水蒸気と膨張剤から発生するガスが、生地中の気泡を起点に生地を風船のように押し広げることによりシュー生地は大きく膨らみます。
1.2.シュー生地の製造工程のポイント
安定してシュー生地を大きく膨らませるためには、シュー生地の製造工程を理解することが大切です。

シュー生地の製造工程では、原料を一定の条件で均一に加熱すること、原料を均一に撹拌することがポイントとなります。
2.シュー生地を安定して大きく膨らませるための9つのコツ
シュー生地を安定して大きく膨らませるコツは以下の9つです。
- しっかりと糊化させる
- 卵を加えしっかりと生地をミキシングする
- シュー生地に霧吹きをしてからオーブンに入れる
- 適切な焼成条件を設定する
- 適切なレシピを設定する
- 適切な卵の配合量
- 適切な膨張剤の配合量にする
- 適切な油脂の配合量にする
- シュー用油脂を使用する
2.1.工程編
ここからは、シュー生地を安定して大きく膨らませるためのコツを詳しく解説していきましょう。
コツ1 しっかりと糊化させる
シュー生地を仕込む際には、最初に油脂、食塩および水を一緒に加熱します。

画像のように適切な状態に加熱された状態で小麦粉を加え、撹拌します。
撹拌中に小麦粉中のデンプンが水を吸収して膨らんで柔らかくなり、糊のような粘りが出ます。

これを「糊化(こか)※」といいます。

この「糊化」したデンプンにより、シュー生地に粘りが出て伸びやすくなるのです。
この「糊化」が不足すると、水蒸気やガスを抱え込むことができず、ボリュームのあるシューパフになりません。
「水と油の加熱時の温度の目安は95~100℃にする。」
これは糊化をしっかりするためのとても大切なポイントです。
温度が低いと、小麦粉中のデンプンが糊化するための熱量が足りなくなってしまいます。
一部だけでなく、全体が95~100℃になるように何回か全体をかき混ぜることがポイントです。

コツ2 卵を加えしっかりと生地をミキシングする
糊化した直後の生地は、柔らかく粘りが出た生地に油脂が不均一に分散した状態となっています。
安定してボリュームのあるシューパフを作るためには、油脂が生地全体に均一に分散していることもポイントとなります。油脂を均一に分散させるために、卵を加えしっかりと生地をミキシングすることが重要です。
生地や卵に含まれる水と油脂は、本来混ざり合わずに分離しやすい性質ですが、卵の乳化作用(卵黄に含まれるレシチン等)を利用して、生地全体に油脂を均一に分散させて乳化させます。
卵の加え方のポイント
糊化した直後の生地温度は、約86~88℃と高温です。
そのため、そのまま卵を投入すると卵に熱が入って固まってしまい、乳化作用などシュー生地における卵の役割を果たすことができません。
卵を加える時は、生地の熱で卵が固まらないようにすること、卵を生地にしっかり馴染ませることが大切です。
最初に加える卵の量は多めにし、生地の温度を下げることが大切ですが、卵の量が多いとうまく生地に混ざらないため、まず全体の半量程度を加えましょう。

ある程度馴染んだら、残りの卵を2~3回に分けて加え、その都度しっかりとミキシングをし、全体が均一に撹拌され乳化されるようにします。
コツ3 シュー生地に霧吹きをしてからオーブンに入れる
シュー生地をオーブンに入れる前に、生地の表面全体に霧吹きで水分を吹き付けます。
生地の表面が乾燥してしまうと、写真(右)のようにゴツゴツとした形状となりシューパフのボリュームが出ません。
生地の表面に水が存在するとシュー生地の表面が焼き固まるのが遅くなり、その分生地が大きく膨らみます。

コツ4 適切な焼成条件を設定する|温度と時間がポイント
オーブンの温度が低すぎると、水蒸気やガスの発生量が足りずに安定してボリュームが出ません。
また、焼けていると思いオーブンから取り出した瞬間に萎んでしまった場合には、焼成温度が低い、または、焼成時間が短いことが原因と考えられます。
使用するオーブンの特徴を掴み、適切な焼成条件(温度と時間)を設定しましょう。
2.2.原料編
本章では、シュー生地のレシピを組む際のコツをお伝えします。
コツ5 適切なレシピを設定する
シュー用油脂を使用した基本的なシュー生地のレシピは以下の通りです。
【シュー生地の基本レシピ】
| 原料 | 配合(%) |
| 薄力粉 | 50~80 |
| 強力粉 | 50~20 |
| シュー用油脂 | 100~150 |
| 水 | 130~160 |
| 塩 | 適量 |
| 全卵 | 180~240 |
| 膨張剤(ベーキングパウダー) | 2~4 |
ベーカーズパーセント(対粉%)表記
(粉に対するその他の原料が配合されている割合)
どの原料も最適な添加量を守ることはシュー生地を安定して膨らませるための大前提となります。
うまく膨らまないときは、レシピを確認してみましょう。
コツ6~9で詳細をお伝えします。
コツ6 適切な卵の量の配合量にする
1章でもお伝えしたように、卵は油脂を生地中に分散させる役割とタンパク質が加熱により固まりシューパフのボリュームを保つ働きがあります。
卵が足りないと、生地が不均一になったり、硬くなり、きれいに伸びず硬くごつごつとしたシューパフになります。
卵が多すぎると、ひどい場合は扁平な形をしたシューパフになることもあります。
適切な量の卵(対粉180~240%)を添加し、適切な生地状態にしましょ
コツ7 適切な膨張剤の配合量にする
シュー生地が膨らむのは、生地中の水蒸気やガスが保持されるためです。
適切な量の膨張剤を使用することで、より安定してボリュームのあるシューパフを作ることができます。
膨張剤としてよく使用されるのは、一般的なベーキングパウダーです。
一般的なベーキングパウダーを使用する場合の適切な配合量は、対粉2~4%です。

コツ8 適切な油脂の配合量にする
油脂はシュー生地を膨らませるための潤滑油としての役割があり、ボリュームを増加させます。
油脂の潤滑作用により生地伸びを良くし、ミキシング時のグルテンの形成を抑制することできれいな空洞を作ります。
このため、油脂が少なすぎると、生地伸びが悪くなり、形成されたグルテンによってきれいに空洞化が不十分となり、シューパフのボリュームや歩留まりの低下につながります。
適切な量(対粉100~150%)の油脂を使用しましょう。

コツ9 シュー用油脂を使用する
シュー用油脂はその名の通り、高品質なシューパフを作るための専用油脂です。
シュー用油脂に配合されるたんぱく質(カゼイン)の力により、シューパフのボリューム増加や空洞化の促進、安定生産にとても役立ちます。

================================================
◎月島食品がオススメするシュー用油脂
![]() |
![]() |
シューファンデクレール
歯切れ、口どけの良いシューパフが焼き上がります。独自製法油脂を使用することで、パフの風味が良くなり、クリームのおいしさを引き立てます。
================================================
3.まとめ
以上が、シュー生地を安定して大きく膨らませるための9つのコツです。
特に、コツ1はとても重要で、糊化不足はシュー生地が安定して膨らまないときの一番の原因といっても過言ではありません。
シュー生地がうまく膨らまないときは、まず最初に糊化がしっかりされているか?を確認することがシュー生地を安定して膨らませるための近道です。
シューパフは、お菓子のなかでも大量製生産するのがとても難しいと言われています。
本記事で取り上げたコツの他にも、製造環境(ミキサーやオーブンの癖など)、レシピ、そして季節によってもシュー生地が膨らまなくなる要因が数多く存在します。
ですが、なぜシュー生地が膨らむのか、シュー生地の製造工程や原料の役割を知り、それぞれに対応したコツを押さえることで、安定してボリュームのあるシューパフを製造することができるようになります。
また、シュー用油脂を使うことでより安定してボリュームのあるシューパフを焼成することができます。
弊社は、シュー用油脂を製造販売して約55年の実績とノウハウがあります。
本記事をお読みいただき9つのコツを実践してもシュー生地が膨らまないとき、シューパフの食感を改善したい、シューパフの安定生産・歩留まり改善などでお困りごとがある際には、ぜひ弊社までお問い合わせください!


