ファットスプレッドとは?原料や作り方を解説

マーガリンだと思って購入した商品の裏面表示をみると「ファットスプレッド」と書いてあり、「マーガリンとは違うものなのだろうか?」と疑問に感じたことはありませんか?

この記事では、食用加工油脂メーカーで業務用ファットスプレッドの開発に取り組んでいる筆者が、ファットスプレッドとはどんな食品なのか、原料から製造方法までわかりやすく解説します。

1.ファットスプレッドとは?

ファットスプレッドはマーガリン類の一種で、油脂に水を乳化させ、冷却して練ったものです。

油脂と水には様々な原料が溶けています。
この原料については、3章でより詳しく解説していきます。

油脂+水→ファットスプレッド

次項から規格などを詳しく解説していきます。

1.1.ファットスプレッドはマーガリンの仲間

下の写真はスーパーで売られているファットスプレッドです。

ファットスプレッド写真
見た目はマーガリンにとても似ています。
ァットスプレッドはマーガリンに非常に近いもので、同じ原材料を使用して同じ製造ラインで作ることが可能です。

マーガリンとファットスプレッドが混同されがちなのはこのためです。

ファットスプレッドはマーガリンと同様に農林水産省が規定する日本農林規格(JAS規格)において規格が定められています。
参照:マーガリン類の日本農林規格
こちらの規格ではマーガリン類の1つとしてファットスプレッドが記載されています。
ではファットスプレッドとマーガリンの違いは何なのでしょうか。
それぞれの違いに関しては2章で詳しく解説いたします。

2.ファットスプレッド、マーガリンの違い

スーパーマーケットに行くと、同じコーナーに「ファットスプレッド」と「マーガリン」が並んでいます。
改めて考えると、これらの違いがわからないという方も多いのではないでしょうか。

以下、違いを詳しく解説していきます。

2.1.ファットスプレッドとマーガリンの大きな違いは油脂の量

ファットスプレッドとマーガリン、2つの大きな違いは油脂の量です。

ファットスプレッドとマーガリンの油脂の量ファットスプレッドは油脂の含有量が80%未満マーガリンは80%以上とJAS規格で決められています。
油脂含有量80%を基準としてファットスプレッド、マーガリンの線引きがされているのです。

その他の違いや一般的な傾向を表にまとめました。

ファットスプレッド、マーガリン比較表

ファットスプレッド マーガリン
原材料 食用油脂
食用油脂
風味原料 使用可 使用不可
油脂含有量 80%未満 80%以上
風味 乳の風味
バラエティー豊富(フルーツ、チョコ味等)
濃厚な乳の風味
カロリー
(10gあたり)
約35~60kcal 約75kcal
冷蔵庫から出した
ときの硬さ
パンに塗りやすい硬さ ファットスプレッドより少し硬い
価格 買い求めやすい 高め
おすすめの
使い分け
パンに塗る
カロリーを抑えたい

乳風味以外を楽しみたい場合
パンに塗る
パンやお菓子作り
使い勝手、風味の両方を重視したい
油脂のコクを味わいたい場合

表からわかるように、低カロリータイプのマーガリン類はファットスプレッドです。
ご存じの通り、油脂はカロリーが高いため、油脂の量を減らすことでカロリーを低くすることができます。

また、ファットスプレッドの方が使用できる原材料が幅広いのも特長です。
風味原料を使用することができるので、風味のバラエティ(イチゴ、チョコ味など)に富んでいます。

3.ファットスプレッドの原材料|メイン原材料は油脂

以下はスーパーマーケットで購入したあるファットスプレッドの原材料表示です。

原材料名 食用植物油脂(国内製造)、食用精製加工油脂、食塩、粉乳/乳化剤、香料、着色料(カロテン)、(一部に乳成分・大豆を含む)

いろいろな原材料が使用されていることがわかります。
一般的に原材料表示の「/」以前に記載されている原材料は食品であり、「/」以降に記載されている原材料は添加物です。

ファットスプレッドに使用される食品と添加物それぞれについて解説していきます。

3.1.原材料(食品)|メインの油脂とその他

食用油脂

ファットスプレッドでは様々な原材料が使用されますが、JAS規格では使用原材料が規定されています。
それぞれについて、具体例を挙げながらご説明いたします。

①食用油脂 
ファットスプレッドの主要な原材料は食用油脂です。
食用油脂は食用動物油脂・食用植物油脂・食用精製加工油脂の3つに分類することができます。

食用動物油脂 食用植物油脂 食用精製加工油脂
バターオイル、ラードなど 大豆油、菜種油、パーム油など 食用動物油脂・食用植物油脂に性質を変える加工を行ったもの

ファットスプレッドが食用動物油脂のみで作られることは稀ですが、食用植物油脂のみや食用植物油脂と食用動物油脂が組み合わせて作られることは多くあります。
また、食用精製加工油脂は主に油脂の固まりやすさを変えるための加工を施したものです。
マーガリン・ファットスプレッドの硬さ(塗りやすさ)を調整するために使用する場合があります。

②乳及び乳製品
粉乳(脱脂粉乳)や生クリーム、発酵乳等が使用されます。
乳風味の付与や、水と油脂の乳化の補助のために使用されます。

③砂糖類 
皆様になじみがあるグラニュー糖や上白糖、黒糖などがこちらに当たります。

④糖アルコール(還元水あめなど) 
糖アルコールはでん粉などの糖質に水素を添加(還元反応)したものです。
砂糖類と同様に甘味を付与することができる原材料ですが、酸や熱に強い、菌の増殖を抑制し日持ち向上させる等の特長を持っています。

⑤蜂蜜
甘味や風味付与のために使用されます。

⑥風味原料 
果汁やチョコレートなどの原材料を指します。
JAS規格ではマーガリンにはこれらを使用することが禁止されているため、多様な風味を楽しむことができるのが、ファットスプレッドの特長の1つになります。

⑦調味料
ファットスプレッドには食塩と食酢の使用が許可されています。

⑧カゼイン及び植物性たん白質 
カゼインとは、牛乳中のたん白質の約80%を占めるたん白質です。
植物性たん白質の代表例は、大豆たん白質になります。
乳化の補助が主な役割です。

⑨ゼラチン 
低カロリータイプの商品は油脂の量が少ないため、ゼラチンにより適度な硬さをつけ、保形性を付与します。

⑩でん粉及びデキストリン 
デキストリンはでん粉を分解したものです。
ゼラチンと同様に硬さや保形性の付与のために用いられることがあります。

3.2.添加物|乳化剤・香料等

ファットスプレッドは、codexという食品の国際規格に適合する添加物を、その使用条件に沿って使用しなければならないと決められています。

参照:日本語版codex規格(農林水産省)

添加物は多岐にわたりますので、今回は1.1.の写真のファットスプレッドに使用されていたものと、よく使用されるものをピックアップしてご説明いたします。

①乳化剤 
乳化とは本来混ざり合わない水と油脂がどちらかに分散し、均一な状態になることをいいます。

乳化
ファットスプレッドは油脂中に水などが乳化している状態です。
もともと混ざり合わないもの同士のため、乳化状態を維持するためには補助が必要です。
この役割を果たすのが乳化剤です。
先程までに、乳製品やカゼイン等も乳化の補助のために用いられるとご説明しましたが、これらの原材料よりも乳化剤の方が比較的強い効果をもちます。
大豆などから抽出される「レシチン」や化学的に合成されたものが使用されます。

②香料 
バターやミルクなどの風味を付与するために用いられます。
バターなどの食品素材から抽出された天然香料や、化学的に合成されたものがあります。

③着色料 
ファットスプレッドはバターを模した色にするため、黄色や赤みのあるオレンジ色をもつカロテン色素やアナトー色素が使用されることが多いようです。
植物から抽出されるものや化学的に合成されるものなどがあります。

④酸化防止剤
食品が酸化すると風味や色が変化してしまうため、これを防止するために使用されます。
ファットスプレッドにはビタミンEが使用されることが多いようです。

4.ファットスプレッドの製造方法は大きく6工程

ファットスプレッドは大きく分けて
①原料の計量、②乳化、③殺菌、④冷却しながら練る、⑤充填、⑥検査
の6工程で製造されており、マーガリンと同じ生産ラインで製造することができます。

ファットスプレッドの製造工程

この①から⑥の6工程を簡単に解説しましょう。

①原料の計量
原料を配合通りに計量します。
計量された原料は油脂に溶けるもの、水に溶けるもので投入するタンクを分けます。
油脂に溶けるものは乳化剤や着色料、水に溶けるものは乳原料や食塩、風味原料などです。
ファットスプレッドは、マーガリンと比較すると水が多く使用できるため、水に溶かせる原料も多くできます。

②乳化
原料を溶解した油脂と水を混ぜ合わせて均一な状態にします。
ファットスプレッドは油脂系に水系を攪拌しながら加えていくことで乳化させます。

③殺菌
食中毒の原因となる微生物の増殖のリスクを抑えるために殺菌を行います。
殺菌条件については、日本マーガリン工業会および公益財団法人日本食品油脂検査協会より「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」の中で示されています。
一例として、ファットスプレッドが含まれるマーガリン類は、『63℃・30分または同等以上』とされています。

④急冷しながら練る
ファットスプレッドはタンクに原料を入れ、乳化、殺菌までの工程までは液状です。
これを冷却することで油脂が固体になります。
さらに油脂が固体になった状態のファットスプレッドを練ることで、皆様が普段手に取るファットスプレッドのような滑らかな状態になります。

⑤充填
急冷練り工程を経て、流動状になったマーガリンはそれぞれの容器(カップ、段ボール、缶など)に充填されます。
充填直後のマーガリンはまだ柔らかく流動状ですが、数日すると油脂の結晶が安定し、皆様のよく知っている固さになります。

⑥検査
出来上がったファットスプレッドは、安全性や適切なものができているかを確認するために、様々な検査が行われ、皆様のもとに届きます。

「これを読めばマーガリンの作り方が分かる!6つの工程を完全ガイド」では同じ製造ラインで作られるマーガリンの製造方法が、解説されています。
興味がある方はぜひこちらの記事も読んでみてください。

5.最後に

この記事ではファットスプレッドがマーガリンの一種であることや、両者の違いについて解説しました。

ファットスプレッドは、パンに塗るほか、実は皆さまの身近な食品に幅広く使用されています。
例えば、スーパーマーケットやコンビニエンスストアで売られている菓子パンやロールパンなどにも、ファットスプレッドは使用されています。
普段意識されることはありませんが、パン生地に練り込んだり、焼き上がったパンにフィリングとしてサンドしたり、注入されたりと私達の食卓でも身近な食品といえます。
この記事読んだ皆さまがファットスプレッドについて理解を深め、安心して食生活に取り入れていただけますと嬉しいです。

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