
食品・化粧品分野に携わる方なら、「乳化」という言葉を一度は耳にしたことがあるかも知れません。
しかし現場では、「何となく理解している」「細部は曖昧なまま経験則で対応している」といったケースも少なくありません。
そこで本記事では、食品における乳化の基礎をわかりやすく整理し、分離などのトラブルが起きる原因とその対策まで、実務に直結する形で解説します。
本記事によって、乳化した食品が実際にどのような状態にあるのかを理解でき、より良い製品設計と安定した品質づくりに役立つはずですので、ぜひご一読ください!
目次
1.乳化とは何か
1.1.乳化の基本
乳化とは、本来は混ざり合わない二つの物質を、細かく分散させることを意味します。
食品分野では主に、水と油を互いの中に分散させるプロセスを指します。
乳化を利用した食品は様々なものがあり、例えば牛乳は水の中に脂肪の塊が分散しています。

なお乳化によってできた物は英語読みでエマルジョン(emulsion)とも呼ばれます。
emulsionは「外に」を意味するexと、と「搾乳する」を意味するmulgereが組み合わさった単語であり、牛乳のように水と油が白く濁って混ざり合った状態を指しています。
参考:https://www.etymonline.com/word/emulsion
エマルジョンにはおよそ10 nm~数μm程度の物質が分散していますが、水の中に油滴となった油が分散したものと、油の中に水滴が分散したものの2種類が存在します。
それぞれの英語(OilとWater)をとってOil in Water(O/W)型、Water in Oil(W/O)型と呼ばれます。
O/W型は牛乳、マヨネーズが、W/O型はマーガリンが代表例となります。
なお本記事の以降の内容は、油が水の中に分散した状態(O/W)を中心に説明させていただきます。

1.2.乳化がもたらす食品の変化
乳化の基本に続いて、乳化は食品にどのような変化をもたらすことが可能かをご紹介します。
1.2.1.口当たり・舌ざわりの向上
O/W型では油が細かく分散することで、油っぽさが薄れて食品にクリーミーさ、コク、なめらかさが付与されます。
1.2.2.見た目の変化
油と水が混ざり合うことで、牛乳やクリームのような、均一でなめらかな色合いを作ることができます。
1.2.3.香り・味のタイミング制御
油に溶け込む香り成分は、乳化を行うことで香りの出方を穏やかにすることができます。
食べたときに香りがじっくりと発せられることで、コクがあってまろやかな風味になります。
またW/O型の食品であるマーガリンの場合、油中に分散した水に含まれるタンパク質等が、コク味をもたらします。
1.2.4.製品品質の向上
乳化によって製品の固さや粘度の調製が可能になるため、安定した品質の製品を届けることができます。
2.乳化のメカニズム
そもそもどのようにして、水と油は混ざり合うのでしょうか?
水と油はそれぞれ無数の水と油の分子によって構成されています。
水と油の分子はそれぞれ同じ物質の分子同士で引き寄せ合う力(表面張力)が働いています。
(※油は、脂肪酸という成分によってできており、ビーズのような球が連なった構造となっています。)
一方で水と油の分子はそれぞれが反発しあっているため、通常であれば水と油は分離します。
こうした水と油を混ぜ合わせる(=乳化させる)には、主に2つの方法があります。
2.1.攪拌・せん断
一つが、表面張力を上回る力を加えることです。
これによってお互いにくっついていた水と油がちぎれ、バラバラになった油滴になった油が水の中に分散します。
しかし、水と油は比重の違い等の要因によって、時間がたてば乳化状態から水と油に分離した状態に戻ってしまいます。
そこで、続いて紹介する手法で乳化の状態を保ちます。
2.2.乳化剤の使用
乳化を安定化させる手法のひとつが、乳化剤を用いることです。
乳化剤とは水と油の両方になじむ性質を持った物質の総称であり、水と油の間(界面)に並ぶ特性から、界面活性剤とも呼ばれます。

乳化剤には様々な種類がありますが、代表的な物が細胞の構成要素としても知られているリン脂質(レシチン)と言われるものです。
大豆や菜種、卵黄などから抽出されたレシチンは、様々な製品の原料として用いられています。
乳化剤が存在する状態で攪拌を行うと、油滴が乳化剤に覆われるために油滴同士がくっつきにくくなり、水の中に安定して分散し続けることができるのです。

3.乳化の分離のメカニズム
先ほども軽く触れましたが、本章では乳化の分離が生じるメカニズムについて詳細にご紹介します。
乳化の分離とは、分散していた油滴が再び合一してしまうことを指します。
この要因には、以下の二つがあります。
①乳化剤の機能が弱まる
②油滴の合一が促進する
3.1.乳化剤が機能を失う
乳化剤はエマルジョンのpHや塩濃度(NaClなど)に影響を受ける場合があります。
乳化剤の一部は陰イオンや陽イオンなどの電荷を持っており、この電荷が水層との親和性を高めたり、+と+、-と-といった同じ電荷同士が反発しあうことで油滴同士の距離が保たれ、乳化を安定化させます。
しかし、pHが変化したり塩濃度が上がりすぎると電荷が打ち消されるため、乳化を保つ力が弱まってしまいます。
また、そもそも乳化作用を持つ成分が食品に含まれているかも重要です。
例として、乳化作用を持つ成分の一つである卵について、スポンジケーキでの効果を考えてみましょう
卵の卵黄にはレシチンが多量に含まれているため、卵を加えることでバターなどの油が水の多い生地にうまく分散したり、生地をホイップすることができます。
したがって、レシピの卵の量を減らしてしまうと、乳化がうまく行われず、ケーキ等のお菓子がうまくできない場合があるのです。

3.2.油滴の合一が促進する
油滴の合一は油滴同士が接触することで引き起こされますが、その進行を加速させる要因は振動や熱変化です。
振動が与えられた場合、エマルジョンの油滴同士が接触する回数が増加するため、油滴同士の合一が起こりやすくなってしまいます。
またエマルジョン中の油滴は一見静止しているようでも、実は粒子がつねに動いています(ブラウン運動)。
高温になるほど、ブラウン運動は激しくなるために油滴同士の衝突回数も増加します。

一方で、冷凍した乳化物(エマルジョン)を解凍しても乳化が壊れる場合があります。
これは、冷凍状態で生じた氷の結晶が水と油の境界に突き刺さることで、乳化状態を破壊しているからです。
特に冷凍をゆっくりと行った場合は、乳化の破壊がより顕著に進行します。
氷結晶は-1℃~-5℃の温度帯に最も生成されやすいため、氷結晶による乳化破壊の進行を抑えるにはこの温度帯をできるだけ早く通過する必要があります。

4.乳化の問題解決
これまで、乳化が壊れるメカニズムについてご紹介しましたが、本章では乳化のトラブルの原因を把握したり、回避するための手法を紹介します。
4.1.適切な乳化剤の選定
乳化剤にはいくつか種類があり、食品に応じて使い分ける必要があります。
乳化剤の基本的な性質の指標としてHydrophile Lipophile Balance(HLB)というものがあります。
これは乳化剤の親水性(Hydrophile)と疎水性(Lipophile)のバランスを表したもので、HLBが高いものは分子の親水性が高く、水になじみやすい性質があります。
HLBはメーカーのカタログ等に記載されている場合が多く、乳化剤の用途はHLBによって以下のようにざっくりと分類できます。
もちろん乳化剤の実際の作用は使ってみるまで分からない部分も多いですが、乳化剤選定の目安として、まずHLBに着目することをおすすめします。
以下の章では、乳化剤の代表的な分類をご紹介します。
4.1.1.グリセリン脂肪酸エステル
油脂由来の脂肪酸とグリセリンを反応させて得られるエステルです。
グリセリン+脂肪酸が基本的な構造ですが、有機酸(酢酸、乳酸、クエン酸、ジアセチル酒石酸、コハク酸)が結合しているものや、複数のグリセリンが結合しているポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リノシール酸エステルなどがあります。乳化させる機能に加えて、ケーキ生地の起泡剤、デンプン改良剤としても利用されます。
使用例:
マーガリン、乳製品、乳飲料、菓子類(クッキーやビスケット)など幅広い食品
4.1.2.ショ糖脂肪酸エステル(シュガーエステル)
油脂由来の脂肪酸とショ糖を反応させて製造されます。
HLBの幅が広い点が特徴で、乳化だけでなく、香料や色素の可溶化、ケーキ生地の起泡、油脂の結晶抑制、デンプンの老化抑制等にも用いられます。
使用例:
ホイップクリーム、アイスクリーム、ケーキ、マーガリン、チョコレート、飲料など
4.1.3.レシチン(植物レシチン、卵黄レシチン)
アブラナ、ダイズの種子または卵黄などから抽出される細胞膜の構成成分(リン脂質)です。
レシチンは食品に幅広く用いられており、乳化や分散のほか、離型や油はね防止にも効果があります。
使用例:
アイスクリーム、マーガリン、パン、チョコレート、乳製品などで広く利用。
4.2.乳化の度合いを測定する
乳化した粒子は目で直接観察することは困難ですが、粒度分布計という装置を用いることで乳化の度合いを測定できます。

乳化状態を保つ方法として、油滴を細かくする方法が有効ですが、本手法によって水中に分散した油の粒子の大きさや、どういったバランスで存在しているかを把握することができ、乳化の安定性を判定することができます。
4.3.粘度を上げる
3.2.で紹介したように油滴同士の衝突は乳化破壊の主な原因ですが、水相の粘度を上げることで、油滴の運動を緩やかにできます。
具体的な実施例としては、水あめや増粘剤の添加のほか、糖度の上昇が有効です。
4.4.乳化を補助する素材を用いる
3.乳化の分離のメカニズム では、ケーキの生地づくりにおける卵の働きについてご紹介しました。
弊社では、卵や生地中の水分と油分の乳化を助ける「起泡性乳化脂」と呼ばれる油脂加工品をご提供しており、お客様の用途や製造条件に応じたご提案も可能です。
ご興味のある方は弊社コーポレートサイト >>ケーキ用油脂・乳化脂<<を御覧ください。
また、試作用サンプルをご希望の方は、弊社営業担当者もしくは以下問い合わせフォームよりお問い合わせください。
最後に
本記事では、乳化の基本から、分離が起きるメカニズム、そして実務で役立つ対策までを整理してご紹介しました。
乳化は一見難しいテーマに見えますが、原理を押さえて商品設計に落とし込むことで製品の口当たりや風味、安定性を高めることができます。
月島食品は創業以来、マーガリンをはじめとする油脂加工品はもちろん、製菓・製パン領域で、起泡性乳化脂などの製品をご提供しています。
また、乳化技術を応用したホイップクリーム類、製菓・製パンおよび加工食品向け練り込みクリーム、各種飲料用クリームの製造・販売を行っており、これら製品開発のノウハウや粒度分布などの機器分析を活かしたトラブルシューティングも可能です。
乳化に関してお困りの際は、お気軽にご相談ください!
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参考図書:
・食品用乳化剤と乳化技術
・乳化と分散食品工学基礎講座. 9 乳化と分散
・最新乳化技術ハンドブック
・食品乳化剤と乳化技術
